供花
母が死んだ
母の母である祖母が亡くなって、十年経たず亡くなった、74歳で老衰だった
彼女は自分が十年後生きていないということをわかっていただろうか、64歳の当時、母を見送るとき、自分の老いを想像できていたのだろうか
初めて母のいない夜を生きる
母のいる人生を送ってきたためだ
もう意識のある彼女と会話をしたのはいつだったか思い出せない
晩年は寝たきりの状態でほとんど会話もできない状態だったからだ
祖母がなくなったときは母が張り切って通夜も葬式もしたが、今回は直葬で両方なしになりそうだ、参列者は父と弟と夫と自分の四名ぽっち
もっとちゃんとしてよと思っただろうなと想像した
棺にいれるものを考えようと思うが思い浮かばない
彼女の好きなものも思い出せない
断片的に思い出す、人間として母親を失った子供として悲しみたい、悲しんでやれるような思い入れが彼女にない、無自覚に呪いをあまたかけられた恨みを維持していたい、自分が母親でないものだから子供の立場や視点からでしか彼女のことを見てやることができない、一対一で遺体と相対していると涙が出てくる、何もわかることなくこの世を去ったんだあのひとは、あのひとが自分を出産した年になった娘を見ることもなく目を閉じた、自分の結末もこんな姿なのだろうかと思いを致しそのときはその姿を誰が見てくれるのかそんなひとはいない気がしてならない……
今子供をつくったりしたら、私はきっと母に見せたかったと思うし、まったく真逆の思いも持つのだろう、見せずに済んだと
そんな自分になるのがいやだから持ちたくない、母に子供を見せたかったなんて、絶対に思いたくない
通り過ぎていくことを知っている
思っていたよりも母の死を悲しんでいて、ほっとしたし、自分を軽蔑した
人生楽しかったかな、あのひと
最期にかどうかさだかでないが、唇を強く嚙んだような痕があった
口惜しい思いのあらわれなのではないかとおもえて、可哀想にとあわれんだのだ