楕円偏光

elliptic polarization of light

清和

四月末に職を辞する前の有給休暇二十日分余りから、誇れるほどではないにしろ程々に職業安定所に赴いては求人情報を品定めし紹介状と履歴書を持参して正装で企業に赴くなどの活動を数回しているが、思ったとおりそう快い返事を方々から受けられるはずもなく、数だけこなしている中でも欲目が出てきてしまい破れかぶれの精神も在庫切れを起こしている最中だというのに、隣人は不採用の通知を目の当たりにするにつけ、気長にすればいいと念押しのためなのか何度も繰り返しこぼすことが私を甘やかしているということにいつになったら気付くのだろうかと立場もそっちのけで呆れている

そのような折、母から電話を受ける
母の日に際しての贈答品が無事に到着したので御礼をよろしくとのことだった

晴れの日がよく続いたので洗濯には精を出した
風呂の残り湯を桶で掬ってバケツに入れそのバケツの水を洗濯槽にぶちこむという作業もバケツに水を入れ過ぎると持てなくなってしまうのでその線を見極めてからバケツの持ち手に手をかける
洗い終わった服を針金の衣紋掛けに通す際に隣人であれば隅々まで両手で引っ張りながらしわをのばすという一手間を欠かさない訳なのであるが私は懶のたちであるので極度のものでないかぎり手を加えない

その懶のご多分に洩れず、備え付けのクローゼットに衣装の収納に使っている半透明の蓋つきの箱があるのだがその中の衣装のありさまたるや凄まじく衣類の地層ができあがっているといっても過言でないというものなので、以前から隣人の手伝いを得て部屋を片付けるにしてもその一角は手を触れずにそのままでおかれていたのだが、今日は何か虫の居所が良かったのだろうか、折角新しく購入した円形のラグの上に所狭しととっちらかっていた洋服もまとめてその衣装収納のなかの一枚一枚の服を整頓するという快挙に至った
労働を終えて買い物まで済ませて帰宅した隣人を出迎えるにつけその快挙についての目撃を促し、彼はいつも通り片手を私の頭にのせて抱き寄せながらよしよしと母親の所業でおこなうのである
自室の自分の持ち物である服飾の整理などというできて当然のことをこうして褒めてくれる隣人のことを慕わないわけにはいかない

交際相手が役所に届を提出して新たな生活が始まってから性格がすっかり変わってしまったというようなことをよく聞くので我々の間にもそういった了解を誤認してお互いの神経を磨り減らすといったたぐいの摩耗が発生するのだろうか、このひとは一貫して家事を果たし続けるであろうから何かの拍子に見限られるのはこちらのほうだろうとよからぬ想像をすること自体が隣人の本意ではないということを疑えないのだからほとほと敵わない人間という認識を改めずにはおれないのだ